石塚左玄はミネラルのNaとKの重要性から夫婦アルカリ論を述べて、その中に幾つかの食育・食養論をはめ込んでいます。私は左玄から学ぶべき事を大きく6点に整理しています。

その6点とも理解したり、実践する事は決して難しい事ではなく、常識的な事実ばかりです。以下に左玄の言葉で6点を整理します。

 

①.『体育・智育・才育は即ち食育なりと観念せしや』

教育の中で食育の重要性を初めて提起する。

②.『食()く人を生ずるものにして、即ち食能く(よく)人を長大(大きく)し、食能く(よく)人を(すこやか)

  にし(よわく)にし、食能く(よく)人を(なが)生き(いき)にし若死に(わかじに)するのみならず』

これを左玄は食養道と言っています。食は人のエネルギーになりますが同時に食は私たちの身体をつくっているのです。私たちの身体は食べたもので作られているわけで、この至極当然な事を忘れがちです。

 

③.『臼歯持つ人は粒食う動物よ』

人は何でも食べる雑食動物と学校では習います。しか左玄は、人は臼歯の数や顎の形状から雑食や草食や肉食ではなく主として穀物を食べる動物と考え、日本人はお米を食べるべきと言いました。

  人間 獅子・虎 牛・馬
歯の形 臼歯 ノコギリ歯 平歯
下顎の動き 前後左右に動く 横・斜めに動かない 横・斜めに動く
特 性 穀食 肉食 草食

 

  本数(親知らず含む) 構成比 特性
臼 歯

20本

62.5%

穀物の粒をすり潰す
門 歯

8本

25.0%

野菜・果実を食べる
犬 歯

4本

12.5%

魚・肉を切る
合  計

32本

100.0%

 

 

④.『なるべく菜類の皮肌を脱除せざるを良しとす。』

栄養は食べ物の一部分にあるのでなく食べ物全体にあるから、なるべくそのままを丸ごと食べるのが身体に良いと言いました。出来るだけ自然 のままで、皮をむかず、精製をせずに食べると言う事です。

食物は自らの身体を厳しい自然環境から守るために、一番外側の皮の裏に多くの抗酸化物質やアミノ酸等を持っています。ですから捨てる理由は全くありません。

砂糖は黒砂糖、酢は黒酢、白いパンより黒いパン、白いご飯より黒い玄米等精製をしない食に今すぐに変えていく事が望まれます。

 

⑤.『(にゅう)(ごう)(じゅう)(ごう)

近年、住んでいる土地の旬の物を食べること即ち地産地消が大ブームですが、左玄は入郷従郷の言葉を残しています。つまり住んでいる地域の旬の物を食べる事が最も自然で心身に優しく、また新鮮で栄養価値が高くより健康的になると教えているのです。しかしながら食の安全安心が揺らいだ時に、顔が見える地域の生産者が育てた作物を食べる事が安全安心につながるという事で地産地消がスタートしてきました。

入郷従郷とはそれと違って、人の健康を切り口にした食生活ですが、両者の目的は相違がありますが、結果は同じです。『春苦み夏は酢の物秋辛み、冬は脂肪と合点して食え』の道歌は、春の苦い食物は寒い冬からの目覚めとなり、酢は夏バテ防止であり、秋の辛みは食欲増進剤であり、寒い冬は脂肪で守ると言うこの歌は人と季節と旬の関係を言いあらわしているのですが、寒くなればコトコト煮込んだ野菜の煮物や鍋物が恋しくなります。自然の変化と人の生理は同調して動き、食物と人の関係は、要するに自然と人間の関係になります。そして旬の食材は人の体調を整え病気を予防する働きをするのです。

 

⑥.『恰も一家に於ける夫婦の如く、之を俗解すれば相持にて、所謂持ちつ持たれつと云う可き任務を有する』

簡単に言えば食は偏らず何でもバランスよく食べる事が大事と諭しています。左玄は食の陰陽論と夫婦アルカリ論という独自の理論を構築しました。ミネラルのKとNaのバランスが栄養吸収に大きな働きをすると考えたのですが、これについては、当時のまだ幼稚な医学や栄養学、そして未熟な科学的分析の中で導き出した結論と言う事を酌量しなければなりません。しかし先進国の栄養学である3大栄養素やカロリーだけではなくて、日本の食文化とミネラルの重要性を述べる独自の栄養学を提唱したことは素晴らしい事です。